「スパイラルソウオールリセット」　★★★～良くも悪くもなっていない新章

※※※　注意　※※※

　「シネマ報告書」は、映画鑑賞後の率直な感想を伝えるため、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれる場合があります。

　これから観ようと思っている方は、本報告書の趣旨についてご理解のうえ十分注意してお読みくださるようご了承願います。

「『シネマ報告書2021』の掲載にあたって」

良くも悪くもなっていない新章★★★

（2021年／アメリカ／93分／Spiral: From the Book of Saw） 【　監督　】ダーレン・リン・バウズマン【　出演　】クリス・ロックマックス・ミンゲラマリソル・ニコルズ

サミュエル・L・ジャクソン

【あらすじ】

　地下鉄の線路上で四肢が損壊した死体が発見される。死体は刑事であることが分かり、舌を固定されたまま電車に轢かれたものと推測された。

　捜査にあたることになったジークは、伝説的刑事マーカスの息子であり、正義感が強いあまり署内で孤立した一匹狼。そんなジークを見かねた署長は相棒として若手のウィリアムを付ける。

　捜査が難航する中、犯人が警察官をターゲットに次々と残忍な手口で殺害、マーカスまでもが行方不明となる。

　一体犯人は誰なのか。ジークが犯人を追い詰めようとするも、次第にジークは追い詰められていく―

【コメント】

　さて、鬼才ジェームズ・ワン監督が2004年に放った大傑作『ソウ』。大好評を得て、これまでに7作の続編が製作されたシリーズですが、マンネリを打破すべく“オールリセット”（日本タイトルのみ）と銘打った新章である続編がいよいよ公開！ということで日本公開を非常に楽しみにしておりました。

　まあでも、ぶっちゃけ回を追うごとに拷問ありきグロありきの何が何だか分からない作品になっていったので、オールリセットというコンセプトは良いアイデアだと感じつつも、舌の根も乾かぬうちの新章である本作にはやはり若干の不安要素もありました。それでもこれまで追い続けてきた「ソウ」シリーズ、今回も観ないわけにはいかないなと、さっそく「TOHOシネマズ立川立飛」に足を運んだ次第です。公開館数も少ねーなー。

　うーむ、なるほどねー。確かにこれまでの「ソウ」シリーズ、特に一貫して登場していた殺人鬼ジグソウのじ呪縛から完全に断ち切ったまさにオールリセットである内容には違いない。断ち切ったとはいえ、これまでの「ソウ」シリーズの見どころである数々の残酷な拷問器具を使ったI Want You Play a Gameや、容赦ない四肢損壊のグロ描写、そしてラストに待ち構えている大どんでん返しは健在であり、クリス・ロックとサミュエル・L・ジャクソンという名のある役者を起用したところにも気合を感じる。でも哀しいかな、やっぱりこれまでのシリーズからは良くも悪くもなっていない新章だったと言わざるを得ないです。僕の感覚的には“ソウ＋ヒップホップ”というイメージです。

　いろいろと弱いんですよね、やっぱり。今回も数々の手の込んだ拷問器具で人間が殺されていくんですが、こんな器具どうやって作ったん？とかこれ作るのに一体どこから資金調達したの？とか器具部品調達したらすぐに足ついちゃうんじゃね？とか殺害場所どうやって選定するの？とか、映像の凄惨さとは裏腹に裏方のことばっかり気になってしまう。署長殺害に至っては警察署内の犯行ですからね、ムチャすぎる。

　見せ所の四肢損壊グロ描写シーンも、オープニングの舌固定列車衝突こそ「これぞソウだぜ！」と気合が入るシーンではあるものの、殺害シーンも追うごとにマイルドな感じになっていってなんだかなーといった感じ。

　何より、今回の真犯人が何とも普通過ぎるというか、分かる人には分かっちゃうし殺害の動機もありきたり。ジグソウのカリスマ的な存在感や哲学的な思想が感じられず、単なる正義と悪という思想だけで行動しているのが浅すぎるんですよね。