「パージ」　★★★☆～完成度はあと一歩だが、不気味さが漂う良作

※※※　注意　※※※
　「シネマ報告書」には、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれております。
　これから観ようと思っている方は、本報告書の内容についてご理解のうえ十分注意してお読みください。

「『シネマ報告書2015』の掲載にあたって」

完成度はあと一歩だが、不気味さが漂う良作

★★★☆

(C)Univesal Pictures

（2013年／アメリカ／85分／The Purge）

【　製作　】
ジェイソン・ブラム
マイケル・ベイ
セマスチャン・ルメルシエ
アンドリュー・フォーム

【　監督　】
ジェームズ・デモナコ

【　出演　】
イーサン・ホーク
レナ・ヘディ
アデレイド・ケイン
マックス・バークホルダー
エドウィン・ホッジ
トニー・オーラー
リース・ウェイクフィールド

【あらすじ】

2022年、年に一度、12時間の間だけ殺人を含むすべての犯罪が許される“パージ法”が施行されたアメリカ。
　パージに備えたセキュリティシステムを販売するジェームズ・サンディンは、妻メアリーと彼氏を父親に認めてもらえずやきもきとしている娘ゾーイ、オタク気質な息子チャーリーとともに、今晩より開始されるパージに備えセキュリティシステムを作動した。
　19時、政府の放送とサイレンとともにパージが開始、セキュリティは万全と思われたが、チャーリーが外で助けを求める男を助けるためにシャッターを開けてしまい、同時にゾーイの彼氏がいつの間にか家に忍び込みジェームズに銃口を向ける。
　助けた男を狙う暴徒と化したパージ推進派たちは、男を引き渡さないと家族を殺すと脅迫、一家の恐怖の一夜が始まる―

【コメント】

　さてさて、今年も12月に突入し、いよいよ2015年鑑賞映画ラストスパートの時期となってきましたが、ここでどうしても今年中に観ておきたかった映画が本作とその続編『パージ：アナーキー』なんです。
　本作は劇場公開時ちょっと気になっていたもののスルー、ここでようやくのレンタル陳列と相成ったわけですが、秘かな人気があるのか、十数本の在庫が常にレンタル中の状態。僕も観たい一心でほぼ毎日仕事帰りにTSUTAYAに立ち寄り、この度ようやくレンタルできたので、さっそく鑑賞してみた次第です。

(C)Univesal Pictures

完成度はあと一歩だが、不気味さが漂う良作

　いやいや、これはなかなかに面白かったですよ。期待どおりかどうかといえば完成度としてもう一歩の出来でしたが、全体的にうすら寒い不気味さが漂う良作のスリラーだったと思います。
　そもそも、「1年に12時間だけ殺人を含むどんな犯罪を犯しても良い」という“パージ法”なる設定自体がぶっ飛んでいますが、その設定が変にSFチックにならず、むしろそのパージ法がリアルに生活に馴染んでいて不気味さ満点。
　展開としてはもっと盛ってほしかったですが、本作に隠されているアメリカ社会の現状を鋭くえぐった社会派なテーマの空気がとてもスリラーしていて見応えがありましたね。

もっと展開を盛ればもっと面白くなったはず

　本作は85分という比較的短い上映時間ですが、こんな奥深い社会派なテーマを盛り込んでいるものの、肝心のサスペンスフルな展開がいまいち盛り上がらなかったのが惜しいところ。
　完璧と思われたセキュリティシステムが脆くも崩れ去る、娘の彼氏が父親の命を狙う、謎の黒人男が家に潜む、暴徒と化した若者たちが一家を襲う、今度は近隣の人たちが一家を襲う。こんなに盛り沢山な展開を用意しておきながら、見どころらしい見どころがなく、中盤ちょっと中弛みしてしまっていたのは残念でしたね。
　もうちょっとひと捻りすればもっと面白くなったはずだと感じます。

アメリカなら本当に施行しそうな“パージ法”

　本作に登場する“パージ法”。政府のテレビ放送によるパージの開始とそれに呼応する開始のサイレン。あのシーンは本当にぞわぞわとうすら寒くなる場面でしたが、あるいはアメリカで施行されてもおかしくないな、と一瞬思ったりします。
　もちろん人を殺してもいい時間を設ける法律なんて施行するわけがないのは分かっていますが、「これがアメリカが再生するため！アメリカの将来のため！」という一種の宗教的な刷り込みをもってすれば、あるいはあながち施行されてしまう危険性もはらんでいそうな気がします。それが確実な実績を上げてしまえばなおさらでしょう。
　本作のテーマって、そういった国民を刷り込んで宗教化させる法律に対する警鐘なんじゃないかと感じますね。日米同盟が締結されているから、日本にもパージ法の波が押し寄せてくるかもですね。