「去年の冬、きみと別れ」　★★★～よくできた筋書きだが演技に難あり

※※※　注意　※※※

　「シネマ報告書」には、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれております。

　これから観ようと思っている方は、本報告書の内容についてご理解のうえ十分注意してお読みください。

「『シネマ報告書2018』の掲載にあたって」

よくできた筋書きだが演技に難あり★★★

【　原作　】

中村文則

去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫)

497円

Amazon

【　出演　】岩田剛典
山本美月
斎藤工
浅見れいな
土村芳
北村一輝

【あらすじ】

　若手のルポライター耶雲恭介は、婚約者である松田百合子との結婚を間近に控え、盲目の美女が焼死した事件を追うため、週刊誌のデスク小林に近づく。

　耶雲は、事件の容疑者で不起訴となったフォトグラファー・木原坂雄大に密着取材を慣行し、事件の真相に迫るが、木原坂の魔の手は百合子に伸びる。

　そして、第二の焼死事件が発生した時、驚愕の真実にたどり着くのだった―

【コメント】

　さて、今回は「観た人すべてが、ダマされる」という非常に美味しそうな文句で宣伝しまくっている本作を鑑賞。いわゆるどんでん返し系のサスペンス物というわけですな。映画好きならずとも、この宣伝文句にときめく人も多いでしょう。

　こんな宣伝文句が目に入ったからには、よっしゃ！いっちょダマされに行こうじゃねーかと、相変わらず原作未読ながらもさっそく「立川シネマシティ」に足を運んだ次第です。

よくできた筋書きだが演技に難あり

　うん、よく考えられたストーリーですな。宣伝文句にもある「騙された」感があったかどうかは定かではないですが、確かによく練られた筋書きだっと思います。面白かった。まあ、そもそも原作あっての映画ですからね、映画のシナリオというよりも原作者の功績と言えるでしょう。

　建付けとしては、ラブ・ストーリー仕立てのサスペンス物で、いわゆる犯人当てといった部分も若干ありつつも、事の真相に迫ったときの意外性、一連の事件のからくり・種明かしという部分がミソになっているわけですね。よくもまあ、こんなに入り組んだシナリオを考え付いたもんです。

　本作の原作は未読でありますが、いわゆる“叙述トリック”という映像化が難しく活字だからこそできる展開となっているようで、それを考えると、本作の冒頭でいきなり“第二章”が始まり、クライマックスの種明かしで“序章”と“第一章”を持ってくるといった工夫で映像化を可能としたアイデアも良かったと思いますね。もっとも、映画化のために原作をけっこういじっているみたいですが、叙述トリックを映像化した意気込みは褒めるべき点ですね。

　しかしながら、本作にどうしても及第点を上げれないのは、なんてことはない出演者の演技に難あり、といった部分ですね。

主人公の難しい役柄は岩田では役不足

　とにもかくにも、本作をダメにしているのは主人公・耶雲恭介をえんじた三代目J Soul Brothersの岩田剛典の演技に他なりません。イケメンであることは語るに及ばない部分ですが、やはりまだまだ演技がたどたどしくてわざとらしく、セリフもところどころよく聞き取れなく、活舌がイマイチ。大した演技経験もないタレントが演じるには難しすぎる役柄で、ぶっちゃけキャスティングミスだったと感じます。

　それは、本作のキーマンとなる写真家・木原坂雄大役の斎藤工にも言えることで、悪役を演じるには凄みや存在感が希薄で表情も硬い。実は後半、本作でいちばんのキーマンとなる雄大の姉役である浅見れいなにいたっては存在感が薄すぎる。ネタバレは避けますが、木原坂姉は本作で男たちを翻弄して狂わすようなとても重要な役回り。であるにもかかわらず、キャラ的にも本作での扱い的にも軽すぎ。

　ストーリーはよくできているものの、やっぱりキャスティングと演者の演技力の低さが本作をダメにしていたかと感じますね。あ、でも北村一輝は良かったですよ。

タイトルの後に続く言葉「僕は化け物になった」

　そんなわけで、ここまで工夫を凝らしているにもののちょっと残念な出来の本作でしたが、先に書いたとおり役者の演技に目をつぶれば見応えあるサスペンス物だと思います。

　ここでネタバレは避けますが、ヒントとして本作のタイトルには続きの言葉があって、「去年の冬、きみと別れ、僕は化け物になった」という一文が完成するわけです。もちろんこの文章だけで映画の全貌は分かりません。去年の冬に誰が誰と別れ、誰が化け物になったのか。化け物の意味するところは何なのか、これがラストシーンで語られるところ。

　一見して切ないラブストーリーのようなタイトルですが、ひねりにひねったストーリーの妙は悪くなかったと思います。演者の演技がもっと良ければもっと面白くなったはず、ネタバレしても繰り返し観られる良質のラブ・サスペンスに仕上がっていたことでしょう。