「人魚の眠る家」　★★★～テーマは深いのに色々と浅い

※※※　注意　※※※

　「シネマ報告書」には、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれております。

　これから観ようと思っている方は、本報告書の内容についてご理解のうえ十分注意してお読みください。

「『シネマ報告書2018』の掲載にあたって」

テーマは深いのに色々と浅い★★★

【　原作　】

東野圭吾

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

788円

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【　出演　】篠原涼子
西島秀俊
坂口健太郎
川栄李奈
山口紗弥加
田中哲司
斉木しげる
大倉孝二
駿河太郎
ミスターちん
遠藤雄弥
利重剛
稲垣来泉
斎藤汰鷹
荒川梨杏
荒木飛羽
田中泯
松坂慶子

【あらすじ】

　IT機器メーカーを経営する播磨和昌とその妻・薫子。二人の娘を持つこの夫婦は別居状態で、娘の小学校受験が終わったら離婚すると約束していた。

　ある日、娘の瑞穂がプールで溺れてしまい、意識不明のまま回復の見込みはないと医師から告げられる。瑞穂を脳死と受け止めるか迫られた夫婦は、和昌の会社に勤務している技術者・星野の最先端技術により前例のない延命治療を開始する。

　その結果、娘はただ眠っているかのような状態を維持するが、瑞穂の生を疑わない薫子は、次第に狂気に満ちた行動へとエスカレートしていく―

【コメント】

　さて、今回は、東野圭吾原作のヒューマンミステリーである本作を鑑賞。テレビのバラエティでも散々宣伝しまくってますな。

　相変わらずの原作未読ながら、東野圭吾の理的なストーリー展開は観ていても面白いのですが、堤幸彦監督というのに一抹の不安を感じつつも、とにもかくにも「立川シネマシティ」に足を運んだ次第です。

テーマは深いのに色々と浅い

　う～ん、まあ面白かったといえば面白かったですけどね、これはむしろ原作の素材そのものの面白さで持った映画でしたかね。映画だからこそできるタブーに切り込んだせっかく深いテーマなのに、作り、演出、役者の演技、締め方などなど、色々な部分での“浅さ”が目立つ、非常にもったいない映画でしたね。うん、ほんともったいない。

　言わずもがな、本作が持つテーマとは、“命”に関するもので、「何をもって“死”とするか」、「客観的な線引きとしての“死”を当事者は受け入れられるか」といったところでしょう。脳は機能せずとも心臓は動いている脳死という状況を“死”と捉えても良いものか、そして脳死した子の親は何をもって死と受け止めるのか。死というものに関する世界中で議論となっている奥深いテーマであり、非常に考えさせられるものであることは間違いありません。

　しかしながら、本作は“泣ける映画”という客寄せのための短絡的な作りに終始してしまっていて、せっかくのテーマを台無しにしている。ミステリーというエンタメ要素を含みつつも、みなさんは死についてどのように考えますか、という観客への問題提起をするべき作品であるのに、クライマックスに子供を使って泣かそうとする小細工を仕掛けてしまっているだけに、なんでそうしちゃうかなーとがっかりな気持ちでならない。

　正直、堤幸彦監督の底が見えてしまった感じがしますね。堤幸彦にこの重いテーマを描ける技量はないと分かってしまった。そしてフジテレビもね。

一皮剥けるチャンスを逃した篠原涼子

　本作の作りが姑息な感動映画となってしまっているがゆえに、出演者の演技にも影響が出ちゃっていますね。特に、母親役である主演の篠原涼子、彼女の役どころは非常に難しいものだったと思います。愛娘が脳死してしまった悲しみからの治療に伴う喜び、まるで生きているかのような動きを見てだんだんと生きているものと錯覚して日常の狂気めいた行動を起こしていく。女優・篠原涼子として一皮剥ける千載一遇のチャンスでもあった難しい役どころだったと思いますが、監督の力量が不足していたがために、結局いつもどおりの演技をしてしまっている。力演していたとは思いますけどね、本作で最も怖い部分である母親の“狂気”を演じ切れていない。こんな役めったに巡り合えないのに、非常にもったいないと感じますね。

主題歌は絢香「あいことば」

　本作のエンディングを彩る主題歌は、絢香の「あいことば」。美しくも哀しいテーマを持つ本作にはピッタリな曲といったところですかね。